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あんまりな終わりで始まり
彼の名前は志賀創流(しが・つくる)
今年で30才になる、香川県出身で、まあまあの地方大学を出て、上京し、サラリーマンになった普通の男。
建設会社に就職した創流は、エリートコースとは行かないものの、現場の作業員からの信頼も厚く、上からの評価も悪くはない
まあ順風満帆と言っても良い人生だった。
ただ1つの事をのぞけば…
「はあ~」
ため息をつく創流
「どうしたんですか?先輩」
仕事帰りに一緒に歩いていた後輩が創流の下を向いた顔に自分の顔を近づけて聞いてくる。
「いや、また、街コンで知り合った女の子から返事が返って来ないんだ」
フフフッと嬉しそうに笑う後輩
「なあんだ、そんな事ですか」
創流はむきになり
「そんな事とはなんなんだよ!お前には分からないんだよ!爽やかで女と見間違うような美少年顔のお前にはさ」
ふんっとソッポを向いてすねる創流
「いやいや、先輩みたいな男らしい顔…オレは好きですけど」
なだめる様に肩や腰をさわり慰める後輩
「そうか、ありがとうよ!そんな事言ってくれるの動物園のゴリラのメスか、お前だけだよ!」
そう、彼は動物園に行くと、たまにゴリラに求愛されるぐらいにはゴリラ顔であった。
因みに、求愛しているのはオスなのだが…
「そんな事より、今日はこのあと空いてますか?」
「うん?まあ空いてるけど」
「この前、紹介した美容院一緒に行きませんか?」
「う~ん、まあ、良いけど…」
最近、創流は美少年風の後輩と一緒に美容院に通いだした。
その為、二人は同じ髪型になってる、少し遊ばせたミドルヘアと行った風で後輩くんは似合っているが、創流のカットが終わった瞬間に笑いを堪えながら「良くお似合いですよ」と言われた美容師がトイレに駆け込み大爆笑していたのが記憶に新しい。
元々は自分からモテたいから協力してくれと美容院を紹介されたので、今さら行きたくないとも言えない創流であった。
あ~あ、家に帰ってワイクラやりたいなあ
楽しそうに話している後輩くんの話を聞き流しながら創流は現実逃避していた…
創流の言っているワイクラとは
最近、創流がはまっているまったり系のサバイバルゲーム、正式名称は「ゲーム・アイランド ~ワイワイクラフト~」であった。
ワイワイクラフトは、裸一貫で島に流された主人公が木を切ったり土を掘ったりしてアイテムや建物を作り、モンスターと戦いながら島から脱出するために何故かドラゴンを倒すと言う、小学生を中心に流行っているゲームである。
ああ、早くワイクラの世界に帰りてえ…
創流は、休みの日に1日10時間ぐらいワイクラをやっているため、現実世界よりワイクラの世界で過ごす時間が長くなってしまい、最近ではワイクラをやっている間が本当の自分の様な気になっていた。
そんな事を考えて歩いていると
「後輩くん!私と一緒に異世界転生しましょう!」
ぐさり
そう音がしたと思ったら背中に激しい痛みが!
後ろを振り返ると、地味で大人しそうな顔に特徴のない女の子が振り返った創流の顔を見て驚いていた。
「うそ…なんで?」
創流の背中に深々と刺さった包丁から手を放し、頭を押さえてうずくまる女の子。
創流は思った
見覚えがある…たしか、街コンで知り合った女の子だ…この子なら大人しそうだし俺でも行けそうと思って声をかけた…
薄れゆく意識の中で、そんな事を思い出した創流。
喚く様な叫び声と後輩くんの怒声が聞こえる。
徐々に何も音が聞こえなくなっていく
そして、気がつくと
倒れた創流を目に涙を浮かべ優しく介抱する後輩くんがいた。
「先輩…すみません、俺が…先輩の街コンに隠れてついていって、女に先輩をとられるくらいなら、そう思って、あの女を誘って、先輩から引き離そうとしたから…まさか、こんな事になるなんて」
しかし創流には、もう何も聞こえていなかった。
「こんな…俺は先輩が好きなんですっ!誰にも渡したくない」
そう言ってキスをする後輩くん。
その時、創流は思った。
ああ、俺はもうダメだな…死ぬわ…後輩が人工呼吸してくれてるみたいだが…
涙を浮かべた後輩くんに熱烈なディープ人工呼吸をされながら創流は思った。
それにしても、あんまりじゃないか?
ほぼ全然関係ない女に後輩と間違われて刺されて、ファーストキッスを男に奪われながら死ぬなんて…
閉じゆく意識の中で後輩の顔を見ながら創流は思った。
ああ、生まれ変われるなら、後輩くんみたいな美少年風の、いや、美少年に生まれ変わりたい!そして、ワイクラやりたい。
そんな最後を迎え、創流は天に召されていった。
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