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その患者さんは目を覚ますと辺りを見渡し、今自分がいる状況を把握しようとしているのか、瞳の方も同時に目をゆっくり開けてきたようだ。
と、その時、その患者さんが目を覚ましたと同時に声を掛けたのは、その患者さんの様子を見ていた梅沢和也だ。
「あ、ああ…まぁ…」
とゆっくりと返事をする患者さん。
すると、間髪も入れずに、
「ここは…?」
と呼吸器の合間から聞いているようだ。
呼吸器の合間からという事だからなのか、僅かにしか聞こえない声だが、和也はその声を聞き取る。
「ここは病院ですよ。まぁ、ここは病院の中でもICU室という所ですけど。桜井さんは昨日の現場火災で怪我をされてこの病院に運ばれて来たんですよ。覚えていらっしゃいますか?」
「あ、まぁ…なんとなくなら…」
看護師である和也は桜井さんが意識を取り戻したという事もあってか、桜井さんに近付くと付けてあった呼吸器を外す。
「あー…せやったな…俺、あの現場において、2階から1階に落っこちたんやっけな…。ほんで、怪我しとったから、この病院へと運ばれたって事やんな…」
呼吸器を外すと先程とは違い、籠もったような声ではなく、ハッキリとした声を聞き取る事が出来た。
1人納得している桜井さんなのだが、和也の方は一応、業務をこなさなければならない。
一つ軽く咳払いをすると、
「あの…思い出して下さるという事は記憶の方には問題がない事になるので、宜しいのですが、お一つだけ宜しいでしょうか?お名前の方は分かりますか?」
「あ、あぁ!俺の名前か?俺の名前は桜井雄介って言うんや…」
「そうでしたか…」
そう言うと和也はパソコン画面に向かって、その患者さんの名前を確認したようだ。
そして、和也は担当医でもある望に連絡を入れる。
暫くしてICU室へと入って来た望。
だが、ここは重症者患者さんが多いICU室なのだから、例え医者であっても髪の毛一つも落とせない場所ない。だから、髪の毛を覆う帽子にマスク着用は必要条件であった。
ここへと入って来る物はある意味、瞳しか見えていない。
望はその桜井さんの所へと来ると、業務的な言葉を掛ける。
「体の方は痛くないですか?」
「あ、ああ…はい…まぁ…」
その声を掛けている間に望はその患者さんの様子を聴診器で診ている間、桜井はジッと望の様子を見ていた。
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