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両親にゴールデンウィーク中、帰省することを約束して駅を出ると、バス停のベンチに琥珀が座っていた。
「待っててくれたんですか?」
となりに座ると、横目でちらりと見られる。
「親には会えたのか?」
「……はい。ありがとうございました」
笑みを浮かべた紗栄に、琥珀はふんと鼻を鳴らした。
「バスと違って、俺には『ありがとう』の一言ですむから、安くついていいな」
せっかく感謝していたのに、またそういう嫌味っぽいことを言う……。
むっとしつつも、今は大きな借りがある状態なので、強く出られない。
「じゃあ、お金を払いましょうか? それとも、前みたいに土下座がお望み?」
「そんなものはいらない」
「だったらなにが欲しいんですか」
ため息まじりに言うと、琥珀は黙りこんだ。
ときどき、なにか言いたそうに口を開いては、やめる。……なんなんだ。
「――名前」
ようやく声を出したと思うと、なぜか怒ったようににらまれた。
「前から、おまえのその他人行儀な口調がうっとうしかったんだ。敬語も邪魔だし、普通に名前で呼べ」
いつもより少し早口で、琥珀が言う。
「敬語なら鐵だってそうじゃないですか」
いぶかしく思ってたずねると、「嫌ならいい」とそっぽを向かれた。
嫌だなんて一言も言っていないのに。どうしていつもこう、けんか腰なのだろう。
「わかった……。じゃあ、琥珀」
ため息をついて、名前を呼ぶ。
その瞬間、琥珀の横顔が真っ赤に染まった。
「……それでいい」
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