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「なあに、紗栄も落ち込んでるの? 二人ともまだまだ若いんだから、未熟なのは当たり前でしょ。せめて五百年くらい生きないと、精神的に大人にはなれないよ」
穂積の言葉に、思わず噴き出す。
「人間はそんなに長く生きられないよ」
「そうだっけ? まあとにかく、充とはこれからも仲よくしてあげ――」
「ほ、穂積さん!? なに人の電話出てるんですか!?」
突然、充の声が穂積をさえぎった。
「あ、充上がったみたい。またね」と穂積が言って、「紗栄から電話だよ」と遠くなった声が聞こえる。
うろたえる充と、楽しそうな穂積のやり取りが、少しの間続いた。
「もしもし……」
しばらくして、気まずそうな充の声が聞こえる。
「夕方の件で電話したんだけど。両親のこと、教えてくれてありがとう」
「……仲直りできたのか?」
「うん」
紗栄が答えると、充はしばらく黙ったのち、深く息をついた。
「その……あのときは、悪かった。……ちょっと言い過ぎたと思う」
ぼそぼそと、ばつの悪そうに謝る充に、つい笑ってしまう。
これが電話でよかった。今の顔を見たら、きっと充は拗ねていただろう。
「いいよ。気にしてないから」
紗栄の言葉に、充は「なら、いいけど」と少し声色を明るくした。
また改めて、野菜をもらいに行く約束をして、通話を切る。そのままスマートフォンを置こうとしたが、思い直してメッセージアプリを起動した。
――ずっと、誰も自分のことを知らない場所へ行きたかった。
うまくいかないことをすべて、自分以外のもののせいにしていたから、環境さえ変えれば楽しく生きられると思っていたのだ。
けれど、それは間違いだった。
問題はずっと自分の中にあって、だから、新しい場所に来てもうまくいかなかったのだと思う。
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