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「……で?」
「え?」
「おまえは俺に、何か用があるんじゃないのか」
尋ねられて、つい黙り込む。
淡々とした琥珀の態度にむっとしていたし、実際特に用なんてないからだ。
琥珀はどうでもよさそうなのに、自分だけ「声が聞きたかった」なんて正直に言うのも悔しい。
「ないなら切るぞ」
少しの沈黙の後、琥珀が言った。驚いて何か言おうと口を開いた瞬間、通話の切れた音がする。
「は……?」
目を見開いて、紗栄はスマートフォンを凝視した。
何度まばたきを繰り返しても、通話画面は閉じている。
ふつふつとこみ上げてくる怒りに、スマートフォンを持つ紗栄の手が震える。
紗栄は小さく深呼吸すると、スマートフォンをポケットに仕舞って、土産袋の中からいちご大福を一つ取り出した。
社務所に帰ったら、琥珀抜きで、ヒサギと鐵といちご大福を食べてやる。
飲み物なしで食べたせいで、口の中が乾いて、あまりおいしくは感じられなかったけれど、気分は少しすっきりした。
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