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電車に乗って、数時間後。昼過ぎになってようやく、紗栄は草津神社の最寄駅に着いた。
これから十分後に出るバスに乗れば、草津神社に帰れる。
しかし、駅のホームを歩く紗栄の足取りは重かった。電車に乗る前、琥珀と電話したときの怒りが、まだ胸の中で燻っているからだ。
ひさしぶりの会話だったのに、用がないからといって一方的に通話を切るなんて。
もともとロマンチックとはほど遠い性格だけれど、それにしたってあの反応はない。
帰省している間だって、琥珀から電話をかけてきてくれるかと思っていたのに、結局、一度もなかった。
紗栄から琥珀に連絡を取るには、社務所の固定電話にかけるしかないけれど、高確率で鐵が出るため気まずい。だから、紗栄はずっと琥珀からの電話を待っていたのだ。
改札を通り、駅の出口へ向かいながら、紗栄はため息をついた。
このままだと、再会そうそうけんかになってしまいそうだ。けれど、長距離の移動で疲れているし、ひさしぶりに顔を合わせてけんかは避けたい。
駅の階段を下りた紗栄は、そのまま駅前のレストランに足を向けた。
ちょうどお腹も空いているし、バスは一本見送って、お昼ご飯でも食べて、気持ちを落ち着け――。
「おい、どこに行くんだ」
ふいにかけられた声に、立ち止まる。顔を向けると、バス停の前に琥珀が一人で立っていた。
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