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二章 還らざるときを想って
「――よし」
午前七時、部屋にある姿見の前に立った紗栄は、少し前髪を直してほほえんだ。
新品のスーツに身を包み、髪はハーフアップにまとめている。
草津神社で暮らし始めてから、早いもので一週間がたった。今日は大学の入学式の日だ。
最後に持ち物の確認をしてから、バッグを持って部屋を出る。台所へ行くと、ちょうど鐵が朝食の支度を始めようとしていたところだった。
社務所へ越して来てから、ご飯は一緒に作るようにしている。
いつものようにあいさつをして冷蔵庫を開けると、赤い蓋のタッパーがいくつか目に入る。
「充のお父さんに貰ったこれ、もうなくなっちゃうね」
タッパーを手に取って、つぶやく。
中には漬物や日持ちのしそうなおかずがぎっしり入っていたのだが、今はほんの少ししか残っていない。
「そうですね。おいしかったのですが」
鐵も残念そうにうなずく。紗栄は中身を皿に移しながら、充の父にそれを貰ったときのことを思い返していた。
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