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 大学で講義を受けていると、彼女のことがよぎり、ぼーっとする。 「どうした明石。ぼけっとして」 「……あ、いや別に」 「クラブにでも行って、ナンパしようぜ」 「あぁ、行こ……」  僕は彼女を思い出し躊躇ってしまった。 「いや、辞めとく」 「なんだよ。つれないな」 「悪い……」  中田との付き合いを徐々に減らしていった。  そしたらある日、 「どうしたんだよ? 最近明石と絡まないのか?」 「最近、明石の奴付き合い悪いんだよ」  中田は呆れながら他の学生に言っていた。  ……。  僕は一体どうしたいんだろうか?  そう考えていると、バイト中に羽田が訊いてきた。 「明石さんは何学部ですか?」 「農学部」 「私は文学部なんです」 「そうなんだ」  文学部か。あまり大学では接点ないな。 「農学部ってどんなことするんですか?」 「やっぱり生物の勉強かな」  僕達はたわいも無い会話をしながら、バイトに勤しんだ。  そして梅雨になり彼女と特に進展もなく、毎日が過ぎていった。  中田との交流は減るばかり。  くっそ! 僕はどうしたいんだ!!  僕は交友関係の岐路に立たされているかもしれない。 中田を取るか、羽田さんを取るか。  よし決めた。  バイト終わり、羽田をデートに誘ってみた。 「ごめんなさい。私、彼氏いるんです」 「そうか……ごめん」  中田とも交流はしなくなり、羽田はバイトを辞めた。  僕はただ生きる為にバイトに明け暮れた。  無心に。ただバイトをした。  雨が降る日のこと。僕は傘を差して帰っていると、ケンカの声が聞こえた。 気づかぬ振りして帰っていると、 「もう私は嫌だわ。離して!」 「駄目だ。てめーの言う通りにさせるかよ!」  聞いたことある声と思ってみると、中田と羽田だった。  ……彼氏いるんです。  彼氏って中田のことだったのか!?  僕は戦慄し、その場から逃げようとした。 「誰か!! 助けて」  と彼女が言ったら、 「な、なんで明石が居るんだ!?」  気づいたら僕は二人の間に立っていた。 「明石さん……」 「彼女が困っているだろ! 離してやれ中田!」 「てめーは関係ないだろ! ほら退けよ」 「退かない!」 「退け!!」 「退かない!」  彼女は僕の背中を触り、震えていた。  僕が助け……。  バチン。  えっ?  雨が降る中、僕は頬を叩かれて倒れた。 「明石さん!」 「行くぞ優!」  そして彼女は引っ張られるから、僕は中田の脚を抑えた。 「明石! どけ!」 「離すか!!」  そうこうしていると、誰が呼んだのか警察が来た。  そして僕達は連行された。  事情聴取を終えた僕は驚愕の事実を聞かされた。  二人は特殊詐欺グループの一員だったのだ。  最後は羽田が嫌気を指してグループから逃げる最中だったらしい。  そして僕は詐欺の対象になっていたそうだ。  しかし彼女がデートを断ったのは、少しの善意だったかもしれないと思う。  そして僕はこれ以上の詐欺被害を出さないために、法学部に転部し警察官を目指すことにした。   
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