どうやら俺は、死んだらしい。

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「立派な死に装束(しにしょうぞく)を用意してもらえて良かったな」 目の前の少女が満足気にうんうんと頷いている。 「死に装束……」 「覚えていないのか?」 少女に問われ、ぼんやりとしていた頭を叩き起こす。 甲高いブレーキ音と、痛みより重さの方が強かったあの衝撃。 「あぁそっか、俺、死んだのか」 そうか。 死んだな。 死んだよな。 学校帰りに自転車ごと、トラックとぶつかった。 空を飛んだ記憶と、何やら走馬灯のようなものを見た気がする。 両親の泣き叫ぶ顔も、朧げに見た記憶がある。 多分あれは死んでからの記憶だ。 空から見下ろしていたから。 なるほど。 俺は死んだんだ。 死んだのは分かった。 分かったんだけど。 「で、君は誰?」 状況が全く理解できていない。 「もう一度言うか? 私の名はヒロノ。玉井泰範(たまいやすのり)享年十七歳のメイド案内人だ」 「メイド案内人……」 改めて目の前の少女を見つめる。 パッと見は和装だが、その丈は着物にあるまじき短さだ。 太ももで断ち切られた着物?の縁で、ひらひらとレースが揺れている。 確かに、メイドだと言われれば間違いなく和風メイドさんだ。 ちなみに、少女が手に持っているシャラシャラと音のする棒は、かの有名な西遊記で三蔵法師(さんぞうほうし)が持っていたような例のアレで、決してメイドさんの必需品ではない。 しかしそれ以外の要素に関しては、メイドだと言われればもうメイドにしか見えない。 我ながらメイドメイドうるさいな。 「死んだのに、なんで俺はメイドさんと一緒にいるんだ?」 少女がむっと口を引き結び、泰範を睨んだ。 至極当たり前の質問をしただけなのに。 「メイドさんではない。冥土(めいど)案内人だ」 少女が、手に持っている三蔵法師棒で砂に字を書いた。 なるほど、その「冥土」ね。 なるほど、俺、死んだからね。
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