初七日《秦広王》

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話の信憑性を悟った秦広王(しんこうおう)がふむと考え込んだ顔をした。 興味を持たれたことに気をよくした法守護童子(ほうしゅごどうじ)が、更に続ける。 「しかも、獄卒(ごくそつ)の派遣を暗に許可されたらしいですよ」 「それはまぁ、元々誰も禁止していなかったしのう」 「しかし、明確に許可されたのは初めてではありませんか?」 仏守護童子(ぶつしゅごどうじ)が不安そうに言って秦広王を見上げた。 赤く勇ましい肌色をしているが、その心根はとても穏やかで優しい。獄卒に苦しめられる亡者を想い不安を募らせているのだ。 「仏守護(ぶつしゅご)ちがうよ。“明確に”ではなく“暗に”、だよ」 「許可が出されたなら、どっちも同じことだよ」 法守護童子の訂正にやんわりと返し、仏守護童子は難しい顔をしたままの秦広王をもう一度見た。 「波旬が飽きるまでは、しばらく獄卒が増えるだろうなぁ」 「せっかく人道での所業をここで全て書き連ねても、七七日(なななのか)泰山王(たいざんおう)様まで行き付けなければ意味がありませぬ」 「あぁ。不動明王(ふどうみょうおう)に一度連絡をして、必要とあらば八大童子(はちだいどうじ)の派遣を願わねばならぬかもしれん」 「それには及びませぬ!」 冥土を旅する魂を案じた二人の会話を法守護童子が遮った。 「文殊様の見立てでは、おそらく波旬は自分にたてついた魂に的を絞るだろうと。自分を信じるものには揺るぎなき守護を与える方ですが、たてつく者にはとことん厳しいですからね」 「それならば、その者を集中して守護すれば良いのか?」 「いえ、その魂は釈迦(しゃか)様の印付き……担当はヒロノだそうです」 あぁ、と二人の表情が緩んだ。 「ならばこれも、修行の一環という訳だな?」 「はい。荒療治だと文殊様は仰っておられました」 「なるほど、それで合点がいった」 秦広王がようやく微笑み、満足気に頷く。
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