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「ここが初七日の裁判所かぁ」
巨大な赤門を見上げた泰範が感嘆の声を上げる。
その巨門周辺に、多くの魂が集っていた。
赤門の脇にある建物で受付をしているようだ。
「六日で辿り着けて良かったな」
「駆け下りればもっと短縮できたのに」
ほっとしてヒロノに微笑みかけると、真顔でそう返された。
相変わらず手厳しい。
「俺を殺す気か」
「お前はもう死んでいる」
だから、どこのケンシロウだよっ!
と心の中で突っ込みつつ、ケンシロウを知らないであろうヒロノに言ってもこちらが恥ずかしくなるだけだと、ため息をつきながら受付に向かった。
受付は五つの窓口に別れており、それぞれに優しそうな鬼が座っていた。
筋骨隆々だった三匹の鬼と比べ、だいぶ人間に近い体格をしている。
その雰囲気からは公務員のような真面目さがうかがえ、その穏やかな様子に泰範はほっとした。
「玉井泰範享年十七歳。照会完了いたしました」
三番窓口の鬼が丁寧な口調で対応し、木の札を手渡してくれる。
「あなたは明日が判定日となります。朝一番で玄関にお並びください」
「え、朝?」
太陽のない冥土でも“朝”という言葉が使われていることに驚いた。
確かに、なんとなく薄暗くなったり薄明るくなったりはするが、人間の世界のような明確な差があるわけではない。
「朝とは、世界が明るくなったそのときです」
「えっと、朝一番ってのは……」
「明るくなったと思ったそのときです」
「はい」
問答しても無駄だ。
この世界には日数の概念はあるが、細かな時間の概念はない。
そもそも、魂に眠る必要はなく、食事や排泄といった生き物らしいあらゆる行為もないのだから、時間を気にする必要がない。
泰範自身、細かい時間については考えず、ただ明るくなった数を数えて、今を六日目と判断している。
ならば、同じようにまた明るくなったら七日目と数えて玄関に向かうしかない。
「暇だし、ちょっとその辺散歩する?」
隣に立つヒロノに尋ねる。
長時間ただ待つだけというのは暇じゃないかと気遣ったつもりだった。
「この門の中は不動明王の結界内。獄卒には入ることのできない安全地帯だ。そこを出ると言っているのか?」
ヒロノが呆れた顔をしている。
「え、不動明王って、あの不動明王?」
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