586人が本棚に入れています
本棚に追加
♯4 練習曲〝憧憬〟
真雪にとって、桜也は憧れの存在だった。
グラウンドで、全力でサッカーボールを追いかける桜也。それを、音楽室の遮光カーテンの隙間から見ている自分。
日に焼けた肌。快活な笑顔。
桜也の存在がまぶしかった。憧れていた。
自分もこんな風になりたいと渇望した。
だが、チロシナーゼ欠乏症である真雪は、絶対に桜也のようにはなれない。
自分のいまいましい体質を、どれだけ呪ったか知れない。
真雪を慰めてくれるのは、ピアノだけ。
パリのモンテーニュ音楽大学に留学してまで、真雪はピアノに没頭していた。
なのに、帰国して再会した桜也は…。
「…ま、ゆき?」
過去を追想していた真雪を引き戻したのは、桜也の声。心配そうな、少し不安そうな声。
正常位の体勢で、足をM字に開かされた桜也。性器も乳首も、太股の裏でさえも、なにもかもをさらけ出した無防備で淫乱な姿。
幾度となく、この体を快楽に沈めたのに。
なのに、その瞳は純粋なままだ。
今ここに桜也がいることの幸せを、真雪は改めて噛み締める。
最初のコメントを投稿しよう!