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「…来るな、来るなあっ!」
桜也はあわてふためきながら、出口を探す。
唯一の出入り口、番号認証つきの自動ドア。桜也も出入口はここしかないと気づいたのか、ひたすら番号を入力し始める。
だが、ピーッと解錠を拒否する音が聞こえるのみ。
「…くそっ、なんで開かないんだよっ!」
ボタンにこぶしを叩きつけるが、むろん、そんなことでは開かない。
桜也は真雪に向き直ると、必死に訴えた。
「…真雪っ! お願いだから、ここから出してくれ!
もう朝なんだろ。会社に行かないと。今日は新規企業と契約を結べるかどうかの瀬戸際なんだ。休んだらみんなに迷惑をかけてしまうから、だから…!」
必死に訴える桜也を見て、真雪は悲しくなった。
すでに過労死ラインを超えて働いているのに、桜也はさらに自分を追い込もうとする。体や心はきっと、とうに悲鳴をあげているだろうに。
「この部屋から出ることはできないよ」
無常に宣告して立ち上がり、桜也の腕を引き、ベッドに押し倒す。
会社に行ったら最後、桜也は死ぬまで働かされてしまうのだろう。
だったら、一生ここから出さなければいい。
…そうだ。あんな会社に殺されるくらいなら。
真雪は桜也のほおを両手で挟み、無理やり自分の方を向かせ、ほほえみながら宣言した。
「僕がここで一生、君を飼い殺してあげるよ。桜也」
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