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何度か服をくれと訴えたことはあるのだが、「桜也は生まれたままの姿が一番美しいから」なんて言われ、はぐらかされてしまう。だから裸で過ごすしかない。
「今日って何月何日なんだろう…」
今日の日付け、現在時刻はもちろん、季節すら桜也には分からない。
テレビも動画配信サービスと繋がっているだけで、地上波放送は入ってこない。時刻も表示されない。もちろんスマートフォンのような通信機器もない。
真雪の徹底ぶりには舌を巻くばかりだ。もちろん、悪い意味で。
桜也が再びため息をついた、その時。
ピッピッピッ…、ピピッ、と聞き覚えのある電子音が鳴る。番号認証付きのドアが開錠される音だ。
ここに入ってこれるのは、あいつしかいない。
「おかえり、真雪…」
しかたなく声をかけると、真雪は夕食を運びながらとろけるような笑みを見せた。
監禁されてる側が「おかえり」と迎える。なんて滑稽な光景だろう。
監禁当初は、真雪からどんなに話しかけられても徹底的に無視し、一言も話さなかった。
だが、今の桜也には真雪しか会話できる人がいない。ずっと誰とも話さない、というのは意外と精神的に堪える。
だから必要最小限は会話することにした。不可抗力というやつだ。
むろん笑顔なんか見せず、むすっとしたままなのだが、それでも真雪は嬉しそうな顔をする。
幼馴染なのに、真雪が何を考えているのか、桜也にはさっぱり分からない。
真雪の帰還によって、桜也の代わり映えのない日常が始まろうとしていた。
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