こどもドラゴン

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 この国に来てしばらく。何度か皇帝にお目通りして音楽の演奏などを披露すると言う事をしていたら、ウィスタリアが皇帝から胡弓という楽器をいただいた。見た感じ、弓で弾くタイプの弦楽器なので、ウィスタリアはしばらく触っていれば弾けるようになりそうだと言っていた。  胡弓を手に入れてから、ウィスタリアは毎日練習をしていた。はじめの内は軋むような音を立てていたけれども、フィドルの演奏に慣れているからか、すぐに耳馴染みのいい音を出すようになった。  音が出せるようになったら次は音階だ。長い指で探るように弦を押さえながら、弓で擦る。  そんな練習を繰り返しているうちに、姿を現すようになった。あの小さなドラゴンが。  弦を弓で擦るウィスタリアのことを、鎌首をもたげてじっと見つめる。短いメロディを奏でては、音程を外す度にドラゴンはピィピィと声を上げる。それを聞いて、コンはくすくすと笑う。 「がんばれっていってる」  それを聞いて、私も思わず笑顔になる。ウィスタリアにも、応援が届いているのだろう。一生懸命練習して、練習が終わった後には優しくドラゴンの顎の下を撫でていた。  あのドラゴンは、ウィスタリアが胡弓の練習を始めると必ずと言っていいほど姿を現すようになった。その理由はわからないけれども、多分、胡弓の音が気に入ったのだろう。  何日も胡弓の練習を続けるうちに、ウィスタリアはすっかり胡弓の扱いに慣れた。今ではもう、何度もフィドルで弾いて耳に馴染んだ曲を、胡弓で演奏出来るようになっていた。  ウィスタリアが胡弓で演奏をすると、ドラゴンが楽しそうにくねくねと踊る。その様が余りにもかわいらしかったので、私も故郷から持参したフィドルを持ちだして、一緒に演奏した。  音楽に合わせてドラゴンが踊り、鳴き声を上げる。ウィスタリアも、胡弓を弾きながら歌詞を口ずさんでいた。  何曲か演奏して、踊るドラゴンを見て楽しんでいたら、家の中からコンが呼ぶ声が聞こえた。 「おやつの準備出来たぞ。入ってこーい」  それを聞いてウィスタリアとドラゴンがぱっと顔を上げる。 「今行きます」 「今日のおやつはなんですか?」  私とウィスタリアが各々楽器を持って家の中へと向かうと、ドラゴンも当然と言った顔で付いてくる。  家の中に入ると、居間のテーブルの上にお茶と、丸いパイが用意されていた。 「今日のおやつは薔薇のパイだぞ」  そう言いながら、コンは薔薇のパイをひとつ手に取って、台所で小さく刻んでいる。それを、スープ用の器に入れてドラゴンの前に置いた。ひとくちパイを食べたドラゴンが大きく口を開けてピィ! と鳴く。どうやらお気に召したようだ。  いつものお茶の時間にドラゴンを加えて、それでも穏やかに時間は過ぎていく。  用意された薔薇のパイがなくなって、お茶を飲み終わった茶器を私が洗いおわると、ウィスタリアとコンがテーブルに顔を近づけて何かをじっと見ていた。何があったのだろうと声を掛けようとすると、ふたりが口に人差し指を当てて静かにするよう伝えてくる。それに従って静かに側に寄りテーブルの上を見ると、ドラゴンが仰向けになって寝ていた。  コンが小声で言う。 「いっぱい踊って疲れて、お腹いっぱいになったから眠くなったんだな」  聖なる生き物とは言え、やはりこういう所はまだ子供なのだ。思わずくすくすと笑いが零れる。  このままむき出して眠っていたら体が冷えてしまうだろう。私はポケットからハンカチを出して、ドラゴンの体にかけてあげた。
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