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七海のリアクションに慣れてきたのだろう。奏は柔らかく口端を緩ませた。七海は顎の下に指を据えて、ブツブツと一人ごちる。
「でも、七年もやってるなら結構うまいんちゃう? 奏を誘って軽音部を……」
「いや、奏ちゃんはジャズ研に入りたいんやろ? そもそも存在しない部活に無理に引っ張るのはよくないって」
「それもそうか……」
がっかりとした七海の影が長い坂に伸びる。遠くに見える駅には、マルーン色の電車が桜吹雪の中を抜けて入ってきていた。
「二人はジャズに興味ないの?」
埃っぽい花粉混じりの空気が山から吹き降りて来た。ふんわりとしたなめらかな奏の声が、みなこの鼓膜を甘く揺らす。少しだけ茶色掛かった髪がゆるくなびき、優しいシャンプーの匂いが鼻をかすめた。奏の瞳はうるうるとしている。綺麗なその目を見て、勇気を振り絞って誘ってくれていることがわかった。
「ジャズかぁ。七海はどう?」
「バンドを組もうってみなこと約束したけど、それはロックバンドを組もうって約束したわけちゃうで」
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