3話「鶯の森」

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 もうひとつ、大きな欠伸をして「何がぁ」と七海は腑抜けた声を出す。春の陽気のせいだろう。だけど、みなこが日常の鮮やかさに気づいたのも春のせいなのだ。呑気なのはお互い様かもしれない。  マルーン色の車体はゆっくりと動き出し、ウグイスの囀りをかき消して行く。桜の木々を抜けて、猪名川に抜けるトンネルへと車両は消えていった。 「あれ、高橋ちゃう?」  改札を抜けたところで、七海が坂を登っていく男子生徒を見つけた。紺色のブレザーは宝塚南のものだ。 「ホンマや、航平(こうへい)やなぁ」 「おーい、高橋」 「ちょ、なんで呼ぶん」 「いや、だって見つけたから」  どういう理屈や、とみなこは肩を落とす。別に構いはしないのだけれど。七海の呼びかけに気づいた航平は歩くのをやめ、こちらに向かい手を上げた。 「おぉ、みなこと大西やん」 「そっか、高橋も宝塚南やったんやな」 「まぁそうやけど、うちの中学から宝塚南行ったやつ少ないんやから、覚えといてぇや」 「悪い悪い」  ケラケラと七海は喉を鳴らした。 「みなこと大西も今、帰りか?」
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