8話「水着」

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 里帆が杏奈の脇を肘で小突いた。どうやら、ハンバーガーを希望したのは杏奈だったらしい。 「せっかく会えたんですし、一緒に食べましょうよ!」 「いやええよ。気使うやろ?」  里帆の返しに「そんなことないですぅー」と七海は甘えた声を出した。先輩と食事をするのに気を使わないのなんて七海くらいだろう。一緒に食べるのが嫌というわけではないが、里帆の判断にみなこは賛成だ。 「それに席は取って貰ってるから」  そう続けて、里帆は遠くの方の席を指差した。名前を言わない辺り、ジャズ研の部員ではなく、みなこたちの知らないクラスメイトなのかもしれない。 「そうですか」  七海は残念そうに肩を落とす。「部活のお昼は一緒に食べようね」と杏奈が落ち込む七海に声をかけると、七海の表情はパッと明るくなった。  ニコニコしている杏奈の視線はこちらに向く。 「二人で遊びに来てるん?」 「いいえ。他の一年生と一緒です」 「一年組は仲いいね。結構、結構」  満足そうに杏奈は首を縦に振った。筋の通った鼻がヒクリと動く。少しだけ曇った双眸は、一瞬だけフードコートを見渡した。
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