8話「水着」

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 みなこの脳内に奏の顔が浮かぶ。杏奈が探したのは奏の姿だろうか。 「杏奈、列、進んでるで」  動き出した列を見て、里帆が杏奈の肩を押した。「ごめん、ごめん」と杏奈は開いた間隔を詰める。  連鎖的にみなこたちも一歩前に進む。自然と先輩二人との距離が遠ざかる。文化祭まではもう一ヶ月しかないのだ。休み前の里帆、昨日の奏とのやり取りが、みなこの気持ちを焦らせる。それに七海だって奏を心配しているのだ。それを止めてしまった以上、自分には動かなくてはいけない責任があるんじゃないだろうか。  怖さと使命感が天秤に掛かる。ぐらぐらと土台が不安定になっているのは、やるべきではないという言い訳のせいだ。使命感なんて身勝手なもので首を突っ込むのはお節介。念頭にあるその考えが足をすくませる。だけど、少なくともこの件に深く関わっている里帆と奏は、そう思っていないんじゃないだろうか。  春先の佳奈と似た案件だ。だけど、その役割がどうしてまた自分なのか。積極的に動こうとしない自分は、そういう役回りは向いていないはずなのに。けど、四の五の言っている時間はない。
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