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たとえ、どんな結果になっても、何もしなければ奏は傷ついてしまう。それなら、誤解を解こうと必死になることは間違っていないはず。そう言い聞かせ、離れていく杏奈に声をかけた。
「杏奈先輩」
「どうしたん?」
里帆と話していた杏奈が驚いた顔を浮かべてこちらを振り向いた。
「話があるんですけど」
その言葉に反応したのは隣にいる里帆だった。ほんの少し安心したように頬を緩ませる。期待されているのだろうか。それに答えられる自信はないのだけど。
杏奈の髪がふさっと揺れた。
「今?」
「えーと、今じゃなくてもいいですけど……」
勇気が出た時に行かなくてはと思い、無計画に踏み込んだせいで特に予定は考えていなかった。杏奈は困ったように眉根にシワを寄せる。
「今日は予定があるし……」
やんわりと断ろうとした杏奈の袖を里帆がグッと引き寄せた。
「後輩の誘いやろ」
「そうやけどさ……。うーん、それじゃ明後日。休み明けの練習の日にまた朝一番でいいなら」
「お願いします」
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