9話「境界線Ⅰ」

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9話「境界線Ⅰ」

 この夏、この時間に目を覚ますのは、一体何度目だろう。鳴り響くスマートフォンのアラームを止め、みなこはベッドから身体を起こした。  目覚めがいいのは、昨日プールではしゃぎ疲れてよく眠れたおかげだろう。本当はベッドの中で杏奈とどう話すべきか考えようと思っていたのに、気がつけば夢の中へ落ちてしまっていた。  制服に着替え、学校を目指す。昨日の夜中に雨が降ったらしく、アスファルトが少しだけ濡れていた。すっかり晴れ上がった空は、雨に洗い流され綺麗になり、透き通った水色が広がっていた。そこに綿菓子の切れ端みたいな雲がプカプカと浮かんでいる。錆びた階段の手すりやガードレールが、朝陽を浴びてキラキラと輝き、町全体が丸みを帯びた穏やかな光に包まれているようだった。  学校に着いて、一応職員室を目指す。きっと鍵はなくなっているんじゃないかな。そう思いながら、キーラックを見れば、やはり部室の鍵はすでに貸し出されていた。急いでみなこは部室へと向かう。日時を指定してきたのは向こうだけど、こんなに朝早くから先輩を待たせるわけにはいかない。
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