9話「境界線Ⅰ」

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 部室にたどり着き、みなこは覚悟を決める。奏の誤解を解く。里帆がみなこにあんな提案をしたのもそれを望んでのことじゃないだろうか。下手に上級生が動くよりも、同級生が間に入る方が奏の本心を知れると思ったはずだ。「奏は杏奈先輩のことを嫌ってなんていません。誤解なんです!」それを伝えるだけ。難しいことじゃない。  みなこは短く息を吐き、ドアノブに手をかけた。「おはようございます!」そう叫ぶために今度はすっと息を吸う。そして、グッとドアノブを押し込んだ。  だが、ドアノブはびくともせず、みなこの腕が詰まる。扉の鍵は閉まっていたのだ。キーラックから鍵は確かになくなっていたはずなのに。  同時に、この間は音楽準備室にいたことを思い出した。またあそこにいるのかも、とすぐ隣の準備室に視線を向けると、そのさらに奥にある音楽室の扉が少しだけ開いていることに気が付いた。  もし、吹奏楽部の人だったらどうしよう。そんなことを考えつつ、みなこはそっと音楽室の中を覗き込んだ。電気の付いていない静かな音楽室、その窓際から身を少し乗り出し、誰もいない校庭を杏奈が一人眺めていた。 「杏奈先輩?」
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