78人が本棚に入れています
本棚に追加
みなこがそう声をかけると、杏奈は首だけをこちらに向けた。窓の外の落下防止用の棒を掴んだ手がグッと伸びる。涼し気な夏の風が、杏奈の髪をふわり持ち上げた。
「おはよう」
「おはようございます。なんで音楽室にいるんですか?」
「吹部は今日までお盆休みらしくて、こっそり借りてきた」
「こっそりは駄目ですよ」
「もー、清瀬ちゃんは真面目やなあ」
ケラケラと笑いながら、杏奈は再び身体を窓の外へ持っていく。じわじわと教室内の影を侵食していく日差しが彼女の頬を明るく染めていた。
けど、みなこが聞きたかったのは、そういうことじゃない。スタジオじゃなくてどうしてこっちにいるのかということだ。
「そうじゃなくてですね……。だって、スタジオの鍵も杏奈先輩ですよね?」
「うん、集合場所決めてなかったやろ? 学校に来てから、なんとなく音楽室がいいなぁって思って。ほら、清瀬ちゃんがスタジオでずっと待ってしまわんように、私が持ってたら別の場所を探してくれるやろ?」
最初のコメントを投稿しよう!