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「清瀬ちゃんが聞きたいことは分かってる。けど、なんでそんなに気になってるんかなって」
今度は広角を柔らかく持ち上げて、声を弾ませた。少し怯えた様子の後輩を見て、気が引けたらしい。その明るさはいつもの杏奈のものと少しだけ違っていた。
「それは……」
詰まりそうになった言葉を、みなこは一生懸命に吐き出す。奏、それに里帆の顔が浮かんだ。ここまで来て怖がるな! 自分にそう言い聞かせる。
「……奏ちゃんは杏奈先輩のことを嫌いだなんて思ってないんです!」
あまりに唐突だっただろうか。だけど、ようやく伝えられた。これで奏が杏奈を嫌っているという誤解は解けたはずだ。杏奈が部活をやめる理由は失くなった。万事解決。しかし、みなこの言葉を聞いた杏奈の表情は曇ったままだった。
いや、曇っているというよりも困っていると言った方が正確だったかもしれない。
杏奈の眉根がゆっくりと下がる。真っ黒な瞳が朝陽を受けて、茶色く光沢する。「なんで谷川ちゃんが?」と首を傾げた。
「だって、杏奈先輩が部活を辞める理由って奏ちゃんなんじゃないんですか?」
「どういうこと?」
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