9話「境界線Ⅰ」

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「けど、杏奈先輩だってほんの一年でベースをあそこまで弾けるようになってるじゃないですか」 「清瀬ちゃん、ありがとうな。……けど、それは普通のことやねん。一年間、真剣にやってれば、よっぽどじゃない限り上達はする。私の上達っぷりは凡人レベル。……ううん、普通以下かもしれん。谷川ちゃんも清瀬ちゃんも中学時代はほとんど独学やろ? それにジャズにはほとんど触れてなかったわけやし。けど、ちゃんとした環境を整えて、しっかりと教えてくれる人がいれば、ぐんぐん上達していく。現に、谷川ちゃんの吸収力はすごいよ。恐らく、来年の春くらいには私からコンボの枠を奪えるくらいになるはず」  そうすれば私の立場はどうなると思う? そう言われている気がした。組んだ足を解き、杏奈が二本の足を揃えてグッと前に伸ばす。ピッタリと足にフィットした上履きが、そられた足の裏に合わせて筋張って歪む。 「だから杏奈先輩は奏に冷たくしてたんですか?」
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