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1話「らいおん」
やまない蝉の鳴き声が、降り注ぐ夏の日差しを一層強いものに感じさせる。熱にうねりを上げる自動販売機をにらみつけながら、七海が「あついー」と深く息を吐いた。
「七海ちゃん、もうちょっとだから頑張ろう」
「あーもー、なんで外でやらなあかんの!」
「しゃーないやろ。室内でペンキ使うんは臭いし」
ガチャン、と音を立てて落ちてきたスポーツドリンクを手にとり、七海はくるりとチェック柄のスカートを膨れさせて振り向いた。
「そうやけど! 暑いもんは暑い!」
スポーツドリンクをごくごくと飲み干していく七海の喉元に掻いた汗が、キラキラと光る。そのまばゆさと確かな暑さに顔をしかめながら、みなこは手で庇を作り、騒がしい校舎を見渡した。
夏休みも今日を含め残り三日となり、文化祭の雰囲気が徐々に学校を染め上げていた。廊下にはクラス単位の出し物で使う美品が並び、そこらかしこで生徒たちが準備を進めている。夏休み上旬にはまだ少なかった生徒の数も、先週頃から増え始めて、すっかりいつも通りの賑わいになっていた。
「あとどれくらいやっけ?」
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