1話「らいおん」

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「えーっと。みなこちゃんの分も終わったんだよね? だったら、お城の城壁くらいかな」  顎に指先を当て少し思案してから奏が答えた。みなこたちのクラスの出し物は演劇、『ロミオとジュリエット』だ。校則で模擬店は禁止されているため、大抵のクラスは演劇をするかダンスを披露するか。お化け屋敷や美術の作品展示をするクラスもあるらしいが。せっかくの夏休みの練習時間をダンスの練習や演技の練習で割きたくはない。  とはいえ、何もしないというのは申し訳ないので、個人練習の時間を抜け出し、大道具係として中庭でせっせとペンキを塗っている最中だった。 「えーまだ城壁残ってんのー。めぐやっといてえやー」 「なんで私が一人でせなあかんねん。文句ばっか言ってんと続きするで。とっとと塗って、練習戻ろう」  めぐがうだうだと駄々をこね続ける七海の手を引く。それを微笑ましそうに見つめながら、「あと一踏ん張りだね」と奏が柔らかい表情をこちらに向けた。
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