1話「らいおん」

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 杏奈と話してから随分時間が経ったが、結局、奏にはそのことを伝えられていない。どうして杏奈がそっけない態度を取っているのか。その原因は奏には関係のないことだ、と。だけど、それを伝えるには杏奈の退部も告げなければいけないのだ。  きっと、優しい奏はそのことを悲しく思うし傷つくはず。普段の優しい奏の表情がさらに伝えることを躊躇させる。それと同時に、杏奈との距離感に悩み続ける奏の姿を見るのが辛くもあった。伝えようが伝えまいが奏は傷つく。答えの出ない選択肢を前に、みなこはじっと時間が経過するのを待ち続けることしか出来なかった。 「文化祭まで三週間? 夏休み終わったら練習時間減るし、間に合うかな」 「七海は、もう一曲増えたんやっけ?」 「そう。健太先輩の予定やったところ」 「認められてるってことや」  前を行く二人の会話を聞きながら、本番が近づいて来ていることを実感する。今まで以上にある出番数へのプレッシャーや家族が観に来てくれる緊張、それに加えて杏奈の件のタイムリミット。脳内を埋め尽くすいくつもの問題が、みなこの身体をずっしりと重くした。 「あれ、佳奈ちゃん?」
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