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奏に袖を引かれ、みなこは渡り廊下の方へ視線を向けた。
奏と佳奈の距離は気が付かない間に縮まっているらしい。奏が佳奈のことをちゃん付けで呼んでいるのがその証拠だ。佳奈は奏のことを「谷川さん」とまだ呼んでいるけど。
「ホンマや」
家庭科室の方からこちらに向かって来ていたのは、確かに佳奈だった。だけど、少し様子が違う。
制服ではなく、オレンジ色のパーカーを羽織っていた。それにズボンまでオレンジ色のジャージ姿だ。頭から被っているフードには、たてがみのような毛がふさふさと生えている。見るからに暑そうな格好の彼女は、見られていることに気づくと、すんとした表情でこちらに近づいてきた。
「なにその格好?」
「臆病なライオン。『オズの魔法使い』の」
たてがみをふさっと撫でて、佳奈が答える。どう? と手を広げる端麗な顔立ちに、臆病と形容出来る要素は微塵もない。けど、佳奈の内心にあるものは少しだけ可愛く弱いものがあることをみなこは知っている。
「かわいい!」
「ありがと」
奏に褒められて、気の強そうなライオンは照れながらたてがみを指で弾いた。
「佳奈のクラスも演劇なんや」
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