2話「夏の坂道」

1/8

78人が本棚に入れています
本棚に追加
/1504ページ

2話「夏の坂道」

「また明日なー」 「うん。明日もちゃんと起きてや」 「もー。うちが寝坊したんは三回くらいやろ!」  帰り道、七海との別れ際の会話はいつもこんな調子だ。  前科がある時点で駄目なのだけど。不服そうに唇を閉じたみなこに向かって、七海が元気に手を振る。その笑顔は淡い夕焼けのオレンジ色に染まっていた。 「それじゃ、また明日ね」  みなこと七海の家は、それほど離れているわけではないが、この辺りは道が入り組んでいる上に坂が多いため、鶯の森駅を出てすぐに別れることになる。毎朝、駅で待ち合わせしているのはそのためだ。七海は駅からすぐの細い道を通っていくのに対し、みなこは小高くなっている坂の方へ進んでいく。  鶯の森は、基本的に静かな町だ。猪名川の渓谷も近く、大阪の池田(いけだ)市と隣接する川沿いには自然もたくさん残っている。一方で小高い森を越えた先にある幹線道路沿は、近年整備が進み住宅が建ち並んでいて川西市を縦断しているため交通量も多い。  静かな阪急の駅側と幹線道路を結ぶ山道の中にひっそりと佇む住宅街。そこがみなこの住んでいるところだった。
/1504ページ

最初のコメントを投稿しよう!

78人が本棚に入れています
本棚に追加