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一段高くなった歩道をトボトボと歩きながら、背中に張り付くギターケースを軽く浮かした。じんわりと掻いた汗が、暑いはずの外気に触れてひんやりとする。空の色は、次第に夕方から夜になろうとしているのに、気温はまだ三十度を下回っていないらしい。この夏、最高の気温だと、今朝、天気予報士のおじさんがニュースで言っていた。
酒屋の横に乱雑に並んでいるカラフルなビールケース、がらんと空いた駐車場、暑さに悲鳴を上げている自動販売機、電線と木と家々が交互に並び、次第に町が山の中へ溶けていく。じりじりと立ち込める陽炎に包み込まれた町は、ほんの少し物悲しい。左にカーブしていく坂に合わせて、しとしとと流れる溝渠をぼんやりと見つめていると、背後から声がかかった。
「おっす」
聞き慣れた声に、みなこはローファーのかかとを軸にして、くるっと踵を返した。坂の上にいるお陰で、航平とは同じ視線の高さになっていた。
「同じ電車やったん?」
「みたいやな」
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