2話「夏の坂道」

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 通り過ぎていくオンボロな軽トラックのエンジン音が、自然の音しかしない町並みに轟々と響く。首だけをこちらに向けた航平の顔は、すごく真面目で優しくて、けど少しだけあどけない少年の面影が残っていた。だけど、みなこが知っている一番古い航平の記憶、小学校の低学年だった頃の彼の姿とは綺麗には重ならない。頬を搔きながら視線をそらし、航平はぼそっと言葉を続けた。   「前もそんな顔してたから。ほら、井垣と大西の時」  そう言えば、夏前もこんなことがあった気がする。あれは、幹線道路沿いのコンビニだったはずだ。佳奈と七海のことで悩んでいた時、偶然居合わせた航平が相談に乗ってくれた。  あの時よりも航平の背中が大きく見えるのはどうしてだろう。琵琶湖の湖岸で聴いた彼のトランペットのメロディが、リフレインのように耳の奥で響いていた。切なくて穏やかで、ちょっぴり格好いい。航平の手の中で揺れる真っ黒なトランペットケースを見つめて、みなこは短く息を吐く。 「あの時と似たようなことかも……」 「そっか。一人で抱え込んでるんやったら聞くで」 「うん」
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