4話「目配せ」

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 とはいえ。残された時間はあまりにも少ない。夏休みが明ければ、部活の時間が減って桃菜が一人になるタイミングもそれだけ少なくなる。それに文化祭までは、あと二週間ほどしかないのだ。その後の展開を考えると、声をかけるのは早い段階に越したことはない。  もう少し粘るべきだ、と焦る気持ちとは裏腹に、臆病な自分は今すぐに帰りたがっていた。先延ばしの悪いくせが嫌になる。  ソフトケースにギターを仕舞い、みなこは椅子から立ち上がった。挨拶をしようと周りを見渡せば、いつの間にか桃菜と美帆は部室からいなくなっていた。少し目を離した隙きに帰ってしまったらしい。  今日は声をかけなくて済んだ。ほっと胸をなでおろし穏やかになった鼓動に、先程まで少しだけ緊張していたことに気がつく。こういう役回りは基本的にはやっぱり苦手だ。自分は積極的に動けるタイプじゃない。 「おまたせー」  陽気な声を弾ませながら、七海がめぐの身体にすり寄る。「暑苦しい!」と、むしっとした廊下にめぐの悲鳴が響いた。 「七海ちゃんは宿題終わった?」 「へへ、奏、驚いたらあかんで! ばっちりや!」 「えー意外やな」
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