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訊ねたいことは決まっている。杏奈との関係。もう少しだけ杏奈と桃菜の関係が良好になれば、杏奈が部活を辞める必要はなくなるかもしれない。だけど、それを聞くまでの組み立てがうまくいかない。想定もシミュレーションもしていないせいだ。
「笠原先輩って、高校からなんですよねー? トロンボーンはじめたの」
「うん」
なんでそんな質問するの? と言いたげに桃菜の眦が下がる。少しだけ面倒くさそうに、一つため息をこぼして桃菜は続けた。
「トロンボーンだけじゃなくて、音楽自体もはじめてやった」
「そうなんですか。それやのにあんなに上手なんですね」
知らないフリは、やけに嘘っぽいイントネーションで口から飛び出した。だけど、特に桃菜に反応はない。みなこの嘘は桃菜にバレなかったようだ。棚にトランペットケースを仕舞った桃菜がこちらを向く。
「頑張って練習したから」
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