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桃菜の言いたいことは分かる。他人を使うことで自分の手は染めないタイプの人間、そういう人はいる。だけど、里帆はそうじゃないと思った。上手くは言えないけど。彼女にこの役回りを言い渡された時、そこに保身があるようには感じられなかったから。きっと、何か考えていることがある。みなこはそう感じていた。
みなこが言葉を詰まらせたのを見て、桃菜の眉間に寄っていたシワが少しだけ緩んだ。
「……そっか。そうかもな。ちょっと、うがった考えしてたかも。あの子はそういうタイプじゃない。でも、なら、なんであなたを使ったん?」
「私が話を聞いてしまったんです」
「話を?」
桃菜の頬の筋肉が僅かに下る。無表情な人だと思っていたが、ちょっとした表情の変化に気づくようになってきた。今のはきっと不思議そうな顔だ。
「はい。合宿の夜です。杏奈先輩と里帆先輩が話しているのを聞いて」
「二人がなんで私の話を?」
そこでみなこは桃菜が杏奈の件を知らないんだと気がついた。杏奈が退部することを知っているなら察するはずだ。もしかすると、自分のせいで杏奈が苦しんでいることすら彼女は気づいていないのかもしれない。
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