5話「境界線Ⅱ」

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 ここで初めて、桃菜の足先がこちらを向いた。一歩分だけ出されたそのつま先の上に、オレンジ色が落ちる。彼女にその意図があろうとなかろうと、みなこは目の前の先輩に少しだけ気圧されてしまった。 「里帆やあなたが言いたいことはなんとなく分かった。鈴木さんに辞めて欲しくないんやな」 「……はい」 「けど、やっぱりそれは私には関係のない話やんな?」  腕を組み、桃菜はため息をこぼした。まるで自分の感情を必死に抑え込んでいるようだったが、その唇は激しさを持って動き出す。  「トロンボーンで負けてプライドが傷ついたのは理解出来る。彼女は、入部した時から上手やったし。けど、私はそれよりも上手くなった。ただ、それだけのこと。コンボを出来るのは一人だけ、そのためにはうまくなるしかない。鈴木さんはそれを諦めてベースに移った。結果として、ベースでコンボを取れている。何が不服なん?」  まくしたてるように、桃菜はそれらを言い切った。だが、彼女の言う通りだ。実力主義はこの部活のルールなのだ。杏奈はその戦いから逃げ出した。それは本人も自覚している。そして、奏との勝負からも逃げだそうとしているのだ。
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