6話「優しさとお節介の境目」

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6話「優しさとお節介の境目」

 桃菜との話を終えて準備室を出ると、廊下の隅に奏が立っていた。真っ白な夏服が、沈みきった夕陽の影で灰色に染められている。驚いたみなこは、思わず声が漏れた。 「奏ちゃん先に帰ってなかったん?」 「うん。ちょっと、みなこちゃんが気になって」  そう告げた奏の表情は暗い。細い眉根がピクピクと震えている。だらんと垂れた肘を手で掴みながら、視線を音楽室の方へそらしていた。 「そっかー。ごめんな。用事は済んだから帰ろうか」  なるだけ明るい声を出して、奏の前を通り過ぎる。もしかしたら桃菜との会話は聞かれていたのだろうか。だとするなら、それを追求しないで、そんなニュアンスを込めて。だけど、奏はみなこのその思いを受け取ってはくれなかった。 「待って、みなこちゃん……」  細く柔らかい声がジメッとした廊下に響く。明かりの消えた蛍光灯に、外から迷い込んできた蛾が張り付いていた。 「なに?」  なるだけ声は優しくしたつもりだ。だけど、強張った顔が奏を威圧していたかもしれない。ぐっと噛み締めた奏の唇が白く滲んでいく。肘を掴んだ手に力が込められて、制服の胸の辺りに皺が寄った。
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