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「さっきの話は本当?」
「さっきの話って?」
「笠原先輩と話してたこと」
やっぱり聞かれていたらしい。奏はどこから聞いていたのだろうか。夜を迎えて蝉が鳴き止んだせいで、廊下はやけに静かだった。
「どこから聞いてたん」
「……多分はじめから。杏奈先輩が辞めるって」
「それは奏ちゃんのせいじゃない!」
思わず語気が強くなる。肩にかけていたギターがずれ落ちた。慌てて、それを手で掴む。
「奏ちゃんのせいじゃないねん……」
「……でも、杏奈先輩が私にそっけないのって」
桃菜との会話だけでは、奏がこの問題の全容を理解できないのも仕方ない。
「違う。杏奈先輩は笠原先輩にトロンボーンで負けて。それで部活を辞めようとしてるだけ」
「でも、それって一年前のことでしょ? 今、杏奈先輩はベースだよ」
奏の言いたいことはこうだ。一年前の出来事が尾を引いているのは分かる。でも、今さら辞めるなんて判断に至ったのには別の要因だってあるんじゃないか、だろう。確かに奏の言う通りだ。それは奏にとって辛い真実かもしれない。だけど、告げなければいけないはずだ。
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