6話「優しさとお節介の境目」

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「確かに、杏奈先輩は奏ちゃんと競うことからも逃げてる。笠原先輩の時みたいに」 「だったら、やっぱり」 「違う! 奏ちゃんは何も悪くないやんか。……それは笠原先輩だって同じで。……ただ、杏奈先輩が弱かっただけやから」  やっぱり奏は悪くない。奏が気に留めることなんて何もないのだ。杏奈が弱く脆かっただけ。実力主義な以上、勝ち負けが出てくるのは仕方のないことだ。そこから逃げ出すのは、自分がやって来たすべてを否定すること。音楽と向き合うことを辞めるということだ。それでも、杏奈に同情出来るところが全くないわけじゃない。  それほどまでにトロンボーンや文化祭の思いが強かったのだろう。なら、どうしてその思いを練習にぶつけられなかったのか。こみ上げてきたのは怒りに似た感情だった。だけど、こんな理不尽なものはない。彼女にだって、その気持が初めからなかったわけじゃないはずだ。それを粉々に砕いてしまうほど、桃菜の成長、才能の開花が恐ろしいものだったに違いない。
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