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知子の指示に部員たちが一斉に返事をする。本番は明後日、つまりタイムリミッドも同じ時間のはずだ。
*
「清瀬ちゃん」
リハーサル終わりに杏奈に声をかけられた。あまりに急なことで手に持ったスポーツドリンクを危うくこぼしそうになる。
「なんですか?」
「そんなに驚かんでも」
「すみません」
「もー、相変わらず清瀬ちゃんは真面目やなー」
ケラケラ、と喉を鳴らし、杏奈は楽しげな声を出す。彼女の左手に、金色に輝くトロンボーンが握り込まれている。
「今回は長い公演やけど、ちゃんと役割を覚えれた?」
「はい。たぶん大丈夫です」
「たぶんやとあかんなー。しっかりせんと」
乾いた笑いをこぼしながら、杏奈はステージの奥に設置されたパーテンション裏へ歩を進めた。そこは裏口に繋がっていて、先には控室と楽器奏庫として使用する柔道場がある。一丁前に言えば関係者通路だ。みなこが追いかければ、廊下にはリハーサルを控える有志のバンドたちが集まっていた。楽屋へと戻ろうとする杏奈の背中越しに声をかける。
「それはもういなくなるからですか?」
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