7話「独りよがり」

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 口に出た言葉とは裏腹に、内心はそう思っていた。その葛藤をみんなが抱えて音楽を続けているのだ。勝ったり負けたり、時にはこてんぱんにやられてしまうことだってある。それでも続ける理由があるはず。きっと、秋に行われる大会に挑み続けるのはそういうことなのだ。  だけど、みなこにはそれ以上の言葉は出てこなかった。今の自分には、杏奈の気持ちを本当に理解することなんて出来ない。もちろん、大樹にギターで負けていることは悔しいことだ。いつかは追い越したい、うまくなりたい、と思っている。でも、上級生の大樹に実力で負けるのは仕方のないこと、という諦めがどこかにあるのも事実。杏奈のように、同級生である桃菜に圧倒的な力の差を思い知らされるのとはわけが違う。 「……でも、谷川ちゃんのことフォローしといてな」  杏奈の声はやけに柔らかいものだった。懐かしむようにトロンボーンの光沢をもう一度撫でて、楽器倉庫になっている柔道場へと消えていく。
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