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9話「幻影」
低い重低音が壁の向こうから聴こえてくる。視聴覚室で行われている有志バンドの演奏だ。アンプから放たれる歪みの効いたロックチューンが、体育館も入っているこの大きな建物全体を揺らしているようだった。
「まだ緊張してるん? 休憩時間くらいリラックスしたら?」
「だって、現状は本番の途中ってことやん」
「考え方によったらそうなんかな?」
めぐと七海がパイプ椅子に座り話をしていた。めぐの手にはハッシュドポテトが握られている。食堂で売っているものだ。
文化祭の二日目、ジャズ研はツーステージあるうちの一つ目を終えて、楽屋で次の出番を待っていた。一回目は大成功。大きなミスもなく、来てくれたお客さんからたくさんの拍手をもらうことが出来た。
「それにさ、ツーステ目は家族が観に来るらしいねん。あー、どうしよう、めぐぅ」
「知らんわ!」
どうやら、七海の両親も観に来るらしい。詳しくは聞いていないが、もしかするとみなこの家族と一緒に来る約束をしているのかもしれない。七海の家とは家族ぐるみの付き合いだ。家族の前でもしっかり演奏したい気持ちとは裏腹に、杏奈のことがずっと気がかりだった。
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