9話「幻影」

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 悲壮感のある細やかな音符も階段を、感情的かつ穏やかに知子のピアノは駆け抜ける。彼女がたった一人で作り出す音楽で、舞台の上が豪華なコンサートホールのように輝いて見えた。やがて曲は高音に弾み、また雰囲気を変える。盛り上がりと落ち着きを繰り返しながら、徐々に知子のアドリブが激しさを増していく。一番の盛り上がりを見せたところで、曲は終わりを迎える。  本来ならこの曲は数十分あるのだが、一人でそれをやりきるわけにはいかない。知子はきっちりと決められた時間内に演奏を終えて席を立った。  それと同時、客席から一斉に拍手が起こる。割れんばかりのその音に、知子のピアノに相当感動したことが伝わってきた。というのも、みなこもつい聞き惚れてしまっていたのだ。背中越しに、「ほら行くで」と大樹から声をかけられて、はっと我に返る。袖から舞台へと出ていく部員たちのあとにみなこは続いた。ステージ上はすっかり明るくなっていた。
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