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客席とステージは同じ高さだ。そのせいで、会場のどこかに来ているはずの家族を発見することは出来なかった。祖父母も見に来ているはずだけど。下手に見つけて緊張するよりかは幾分かマシだ。みなこは、所定の場所に着き、みちるの合図に従い客席に深く礼をした。
「こんにちは、宝塚南高校ジャズ研究会です。私たちジャズ研は、秋の大会に向けて日々練習を重ねています。郊外のイベントなどにも参加することもありますが、こうした文化祭という場は、生徒の皆さんや保護者の皆様の前で演奏出来る数少ない機会です。私たちジャズ研の演奏を、今日は是非最後まで楽しんでください」
挨拶をしたのは、知子ではなくみちるだった。知子はピアノの独奏から楽器を切り替える準備があるため、はじめのMCはみちるが進行役を務めることになっていた。
みちるが一瞬だけこちらを見遣った。みんながしっかりポジションについていることを確認して、ふっと短く息を吸う。呼吸音がマイクに乗り、アンプから流れた。
「オープニングは、織辺知子によるリサイタル、『ケルン・コンサート』をお聴きいただきました。それでは引き続き、ジャズの世界をお楽しみください!」
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