9話「幻影」

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 みちるのお辞儀と同時に、照明がスッと絞られる。アシスタントをしてくれているのは、ジャズ研のOB、OGの方たちだ。文化祭は、こうして後輩の舞台の手伝いをするのが習わしらしい。来年になれば、卒業する知子たちが手伝いに来てくれるのだろうか。  そんなことを考えていると、ドラムスティックのダブルカウントが響き、七海が曲の始まりを告げた。フェザリングされたバスドラム、シンコペーションでフロアタムを刻みながらリズムがスイングしていく。本番にテンションが上がっているのか、ワンステ目にはなかったシンバルまで混ざっている。気まぐれでその場のノリで生きている七海には、やっぱりジャズがお似合いだ。楽しげに演奏する七海に、振り返り全体を見ていたみちるがニッコリと笑みをこぼした。そこへ一斉に、桃菜、杏奈、大樹、健太、四人のトロンボーンが加わる。ワンテンポ遅れて、追いかけるようにトランペットがうねりを上げた。身体が弾むような軽快なイントロ。知子の『ケルン・コンサート』で静かになっていた会場の雰囲気が一気に華やかに彩られる。
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