9話「幻影」

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 スイングジャズの名曲、『SING、SING、SING』。《King of the Swing》の異名で知られるルイ・プリマが1936年に発表したこのナンバーは、数多くのバンドにカバーされ、最近では吹奏楽で耳にすることも多い。お客さんの中にもイントロを聞いたことがある人もいたようで、楽しげに身体を左右に揺らしていた。  イントロの終わり、ドラムと奏のウッドベースが一瞬のブレイクを挟む。スッと波が引いたような静寂を裂くように、サックスが軽やかなメロディを奏でた。ギターとピアノもここで演奏に加わり、音の厚みがぐっと増していく。   お客さんもステージのメンバーもリズムに合わせて身体が自然と動いている。音楽によって会場が一つになっていく感覚、これがステージに立つ楽しさだ。アメリカの禁酒法時代、酒場でのダンスミュージックとして生まれたスイングジャズは、無意識のうちに人の心を弾ませる。
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