9話「幻影」

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 曲は、やがてソロパートへと移っていく。クラリネットのソロを演奏するのは知子だ。彼女はあまり自信がないようで、「別の楽器にしよう」と言っていたのだが、みちるが半ば強引にソロを任せた。それもそのはずで、知子のクラリネットは十分に上手い。もちろん、ピアノに比べれば見劣りはするかもしれないけど。それでも、いくつもの楽器をこなせるのはすごいことだ、とみなこは思う。  ドラムとクラリネットが掛け合いを繰り返す中、トロンボーンとトランペットがそれらを繋ぐように楽しげに踊り続ける。ドラムのソロでは、スネアドラムのシャープな音が会場を包み込んだ。七海の上達は目を見張るものがある。中学の頃から練習をしてきたとはいえ、ジャズに触れてまだ半年も経っていない。緊張こそするものの、すでに実力は健太以上になっているらしい。コンボでも七海は選抜に選ばれているのだ。  それはきっと、本質的な才能だろう。七海の血潮にはジャズのリズムが流れている。まだ粗さはあれど、まるで息を吸うように、彼女は身体から溢れ出すリズムを表現出来るのだ。
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