10話「特別」

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10話「特別」

 最後は盛大な拍手が送られた。全員で手を繋ぎ、カーテンコールをする。終演と同時に観客がまばらになったせいだろう。客席の後方で祖父母が椅子に座っているのが見えた。その隣には両親もいる。椅子は、年配の方のためにと、実行委員の誰かかOB、OGの方が用意してくれたのかもしれない。椅子に座ったままで、ちゃんと自分の姿は見えただろうか。そんなことが心配になった。 「本日はありがとうございました!」  知子の挨拶に、また拍手が送られた。それに答えるように、みなこは丁寧に頭を下げる。人前で演奏する楽しさ、それをまたより一層感じられたステージだった。それと同時に、今の自分に足りないことも見えた気がした。秋の大会まで時間はない。ほんのひと月ほどで、どれだけ上手くなれるだろう。ビッグバンドで参加予定の『Rain Lilly』のクオリティーだってそうだ。なにより、コンボでも大樹に勝てるくらい上手くなりたい。たとえ大樹に勝てなくとも、その努力は必ず身を結ぶはずだから。そんな思いがみなこを支配していた。  だけど、同時に杏奈の顔が浮かぶ。カーテンコールの端で、観客に手を振りながら、杏奈は笑顔を作っていた。
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