10話「特別」

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 彼女の努力はどうなるのだろう。中学生の頃から上手くなりたい一心でトロンボーンを続けて、この文化祭のステージに憧れてジャズ研に入った。だけど、その思いはたった一人の圧倒的な才能に潰されてしまったのだ。  そしてベースへと移った彼女は、奏と戦うことを諦めている。もちろん奏は上手だ。だけど、桃菜ほどの才能があるかと言われると、言葉に詰まってしまう。杏奈の心を、上手くなるための闘争心を、へし折ったのは間違いなく桃菜なのだ。  * 「おつかれー」  楽屋に戻るや否や、炭酸ジュースが配られた。みちるの音頭と同時に、プシュとプルタブが開く音が弾ける。どうやら打ち上げのために、川上が買って来てくれたらしい。キンキンに冷えた缶が、興奮して熱くなっていた肌を冷やした。 「今日の演奏、みんなとっても良かった! みんなで案を出し合ったセットリストもすごく楽しかったし、一人ひとりがしっかり成長してた! とっーても楽しい最後の文化祭でした!」  みちるは少々興奮気味だった。胸元のストラップと赤いリボンが愉快に揺れる。そんな自分を自嘲するように頬を赤らめ、みちるは知子の方へ視線を向ける。
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