10話「特別」

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 少なくとも、杏奈がこれから話そうとしている内容を知っているのはみなこと里帆、それに奏と桃菜だけ。彼女たちの表情を確認する余裕も、杏奈が紡ごうとしている言葉を遮る余裕も、みなこにはなかった。砂の城が波に壊されていくのを止められないように、ただ淡々と目の前の状況が悪化していく。 「……今日をもってこの部を辞めようかなって思います」  杏奈が放った想像だにしなかった言葉に、盛り上がっていた空気は一瞬にして凍りついた。「え?」とみちるが驚いたように瞠目する。 「どうして?」  知子がひどく落ち着いた声で杏奈に訊ねた。カツン、とほとんど空になったジュースが机に置かれて音を立てる。空調の音がやけに耳についた。 「それは……」  言葉を濁したのは、桃菜のせいにしたくない杏奈の優しさだろうか。それとも、負けて部を去ることを知られたくない保身だろうか。たとえどっちであったとしても、そもそもこの場でこの話題を出すことが正しい選択には思えなかった。盛り上がりに水を差した彼女の意図はまるで理解できない。 「なにか悩んでることとかあるん? 私たちに至らないことがあるなら改めるけど……」
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